シルバニア村のたからもの

 緑の山と深い森をいくつも越えたその先に、あたたかく幸せな世界が広がっています。そう、ここはシルバニア村。

 ここではいつも穏やかな時が流れています。春には花畑をちょうちょが舞い、秋には山や畑からたくさんの食べ物が収穫できるのです。もちろん、夏のピクニックや冬の雪遊びもみんなの楽しみ。
 村にはかわいいお家がいくつも建っていて、それぞれに仲の良い家族が暮らしているのです。



 そんなシルバニア村の、せせらぎ川の近く。花畑がよく見える、赤い屋根のかわいいお家に住んでいるウサギさん一家。にぎやかに夕食を囲みながらこんな話をしています。
「もうすぐ開村記念日だね。」
「今年はどんなパーティーになるのかな。」

 シルバニア村は、3月20日に開村記念日を迎えるのです。花のつぼみや木の芽が膨らみはじめ、日に日にあたたかくなっていく村では、みんなが開村記念日を楽しみにしています。
 夕食の後、ウサギの女の子は遠くに住むお友だちから届いた手紙を読みました。
『この間は遊びにきてくれてありがとう。今度は、私がシルバニア村へ遊びにいきたいなあ。そうそう、シルバニア村で一番すてきなものって何かしら?遊びに行った時、紹介してね。』
(うーん…一番すてきなものって、何だろう。クマの村長さんに聞いてみようかしら。)
そう考えながら、ウサギちゃんはベッドにもぐりこみました。



 次の日、村長のクマさんが村の仲間たちと何やら話し合っています。
そこへやってきたウサギちゃんは、難しい顔をしてため息をつくクマさんに話しかけました。
「こんにちは、クマさん。あのね、シルバニア村で一番すてきなものって何かしら。」
それを聞いたクマさんは、パッと目をかがやかせました。
「ありがとう、ウサギちゃん!そうだ、シルバニア村で一番すてきなもの、これを選ぼう!」
突然お礼を言われて、ウサギちゃんは訳が分かりません。
「実はね、さっきから今年の開村記念日のパーティーについて考えていたんだけど、なかなかいい案が思い浮かばなくて…。でも、ウサギちゃんのおかげで思いついたよ。『シルバニア村すてきなものコンテスト』を開催するんだ!」
「「「すてきなものコンテスト?」」」
みんなが一斉に聞き返します。
「そう。みんながそれぞれ、『シルバニア村で一番すてきなもの』だと思うものを持ち寄って、一等賞を決めるんだ。もちろん、家族や友だち同士で協力してもいいよ。みんながんばって、すてきなものを見つけておくれ。」
こうして、思わぬきっかけで開村記念日のコンテストが決定しました。



 家に帰ったウサギちゃんは、家族にこのコンテストのことを話しました。
それを聞いたお父さんは、
「よし、僕たちは家族みんなですてきなものを探してみよう。」
と大はりきり。
お母さんも、
「どんなすてきなものが見つかるかしら。楽しみね。」
とほほえみます。
 その日の夜、ウサギちゃんは海に面したしおかぜ岬に住むおじいさんとおばあさんに手紙を書きました。

『来週の開村記念日は、すてきなものコンテストが開かれてとっても楽しいパーティーになりそう。ぜひ、おじいさんとおばあさんも来てね。』



 さて、シルバニア村にはウサギさん一家の他にもたくさんの家族が住んでいます。ネコさん一家もその一員。
すてきなもの、と聞いて、ネコの女の子がまっさきに思いついたのは、お気に入りの場所―風の丘のことです。風の丘には大きな風車のついたお家があって、一年中気持ちのいい風が吹いています。ネコちゃんは、この風の丘を吹き渡る、さわやかな風の音を聞いて過ごすのが大好きなのです。
「でも、風の音は持っていけないわ。どうしたらみんなに伝えられるかしら…。」
ネコちゃんはお母さんに相談しました。するとお母さんは、
「音をそのまま持っていくことはできないわね。でも、あなたが聞いてすてきだと思った音を、再現して聞かせてあげたらどうかしら。軽やかな笛の音なんて、ぴったりじゃない?」
 それを聞いて、ネコちゃんはさっそくお気に入りの小さな笛を持って風の丘に行ってみました。妹の赤ちゃんも一緒です。
風の丘に着くと、ネコちゃんは笛にそっと息を吹き込み、風の音に合わせて演奏を始めました。透き通る笛の音色が風の音と寄り添って、今までにないくらいすてきな音が聞こえてきます。

「わあ…すてき。この笛で、みんなに風の音を届けてあげようっと。」
 ネコちゃんは、ふと赤ちゃんがうらやましそうに見上げているのに気付きました。
「わたしも、だいすきなおと、あるの。」
「なあに?一緒にみんなに聞かせてあげましょう。」
「うんとね…せせらぎがわの、おみずのおと。」
でも、水の音は笛の音色とはちょっぴり違います。そこでネコちゃんはいいことを思いつきました。
それは―



 一方、男の子たちもはりきっています。リスの男の子とクマの男の子は、大好きな食べ物をみんなに紹介しようと、さっそくどんぐり山に行きました。
どんぐり山では、一年中いろいろな種類の木の実や果物、キノコが採れるので、大人も子供も大好きな場所なのです。
「うわあ、高いところにはもっといっぱい木の実がなってる!」
木登りが得意なリスくんは、するすると木のてっぺんまで登っていきます。

「こっちにも、おいしそうなキノコに野いちご…ああ、おなかがすいてきちゃう。」
食いしん坊なクマくんは、ちょっぴり野いちごをつまみぐい。二人は一日中、おいしそうな食べ物を探して駆け回りました。



 子どもたちだけでなく、お父さんたちも頑張っています。イヌのお父さんの提案で、シルバニア村に伝わる不思議な言い伝えを『すてきなもの』に推薦することにしたお父さんたち。
「僕たちが子供のころから言い伝えはあったけど、実際に体験したことはほとんどいないんだよね。」
と、ネコのお父さん。
「村中で聞いて回れば、僕らの知らない言い伝えも集まるかもしれないよ。」
というリスのお父さんのことばで、みんなで村の家々を回ることになりました。
「ネズミのお母さんは、うそつき林のボボーンと鳴る木の音を聞いたことがあるんだって!」
「クマさんが子供のころに見た、キラキラ湖の金色の魚を、リスの赤ちゃんも見たらしいよ。」
次々と、不思議な言い伝えの話が集まってきます。
 そして、言い出しっぺのイヌのお父さんがとっておきの話を持ってきてくれました。どうやら、村の言い伝えをまとめた古い日記が、丸太小屋記念館の本棚にしまってあるようです。
さっそく、お父さんたちは記念館に向かいました。



 子どものようにはしゃぐお父さんたちを、ちょっぴりあきれながら見守っているお母さんたちも、実は大忙し。クマさんに頼まれて、みんなで協力してパーティーの料理を作ることになったのです。
食材は、村のみんなで育てている、野菜畑・果物畑から収穫してきます。
「とれたて野菜のサラダに、キノコのシチュー。ナッツタルトに、クランベリーケーキ。メニューは大体決まったわね。」
とクマのお母さん。
「ええ。でも、材料が足りるかが心配だわ。」
とイヌのお母さん。
「なにせ、男の子たちが食いしん坊だから」

 そんなことを話していると、リスのお母さんがあることを思いつきました。
「ねえ、せっかく村のみんなで作った野菜や果物を使った料理なんだから、これもコンテストに出したらどうかしら?」
これにお母さんたちはみんな大賛成。ますますはりきって、料理を作ることにしました。



 さて、家族みんなですてきなもの探しをすることにしたウサギさん一家はどうしたのでしょう?
コンテストが決まって以来、ウサギの男の子も女の子も、学校の授業が終わると一目散にお家へ走って帰ります。ウサギのお母さんも、他のお母さんたちとの井戸端会議もそこそこに、お家へまっすぐ帰ります。
「一体、コンテストには何をもってきてくれるんだろうね。」
と、村のみんなはひそかに楽しみにしていました。
 ウサギさんのお家では、毎日、
「お父さん、そっちを持って!」
「了解。おっと、破れそうだよ、気を付けて!」
と大さわぎ。どうやら、家族総出で何かを作っているようなのですが、それは一体―?



 そうこうしているうちに、開村記念日、そしてコンテスト本番がやってきました。
あおぞら広場にみんながあつまったところで、クマの村長さんが壇上に登って話しはじめました。
「えー、本日はお集まりいただきありがとう。ご存知の通り、今日はシルバニア村の開村記念日です。まずは、今年も無事にこの日を迎えられたことに、感謝したいと思います。」
仲間たちは一斉に拍手をします。でも、みんな心なしかうずうずしている様子。それを見てクマさんも、
「はは、どうやらコンテストが待ちきれないようだね。ではさっそく、みんなが持ち寄ってくれた『すてきなもの』をお披露目してもらいましょう。」



 まずは、お父さんたちが探しだした、言い伝えがまとめられた古い日記。
「これは、僕らのお父さんやお母さんが子供のころに書かれた日記だよ。」
「わあ、昔からこの言い伝えはあったんだ!」
「これって、私のお母さんのことかも?」
と、みんなはのぞき込んで大盛り上がり。お父さんやお母さんは懐かしい思い出にひたり、子どもたちは初めて知る昔の様子に目をかがやかせました。



 ネコの女の子の笛の演奏は、みんなの心に気持ちの良い風を吹かせました。赤ちゃんは、せせらぎ川の水音を、鈴を振って再現。その可愛らしさに、みんなが目を細めます。
「そうそう、風の丘って、確かにこんなさわやかな風がいつも吹いているわよね。」
「今度のピクニックは風の丘に行こうよ!」
そんなみんなの言葉を聞いて、ネコちゃんもうれしくなりました。



 さて、コンテストが始まってから姿の見えなかったリスくんとクマくんが、大きな荷車を引いて帰ってきました。それを見て、みんなはびっくり。
「キノコに木の実にくだものがこんなにたくさん!一体どうしたの?」
二人は照れくさそうに、
「シルバニア村で一番って言ったら、おいしい食べものでしょ。」
「でも、ちょっと集めすぎちゃったかな?」
と顔を見合わせます。
 すると、クマのお母さんが嬉しそうに駆け寄ってきました。
「まあ、なんていいタイミングなの!ちょうど、パーティーの料理をもっとたくさん作らなきゃって話していたところよ。これだけあれば十分だわ、さっそく使わせてちょうだい。」
と、食材を持っていってしまいました。
「さっそくみんなで味わって、すてきなものを実感しようか。」
と、みんなは笑い合います。



 ウサギさん一家は、家族みんなで何かを運んできたようです。
「とうとうウサギさんの『すてきなもの』が見られるよ。」
とわくわくしてのぞき込んだみんなは、思わず声をあげました。
そこには、とても大きな紙に描かれた、美しいキラキラ湖と花畑の絵があったのです。
「すごーい!これ、ウサギさんたちが描いたの?」
「ええ、家族でピクニックに行く、お気に入りの場所だから。ほら見て、とっても素敵な景色でしょう?」
絵に写し出された湖は、太陽の光をキラキラと反射し、その周りには、色とりどりの花々が咲き乱れています。みんなは、その美しい風景に思わず息を漏らしました。

「いやあ、最後は家のドアからこの大きな絵が出せなくなりそうで、ひやひやしたよ」
とウサギのお父さんが笑います。
お絵かきの得意なウサギの女の子を中心に、家族みんなで紙を繋げて、色を塗って、この大きな作品を仕上げたそうです。



 みんなが絵と景色を眺めていると、車のドアがバタンとしまる音がしました。
振り向くと、そこにいたのはウサギのおじいさんとおばあさん。ウサギちゃんのお手紙を読んで、お祝いにかけつけてくれたのです。
「おじいさん、おばあさん!来てくれてありがとう!」
満面の笑顔で飛びつくウサギちゃんを抱きしめて、
「こちらこそ、お招きありがとう。みなさんがすてきなものを集めているって聞いて、私たちもしおかぜ岬のすてきなところをご紹介しようと思ってこれを持ってきたわ。」
とおばあさん。
 見せてくれたのは、おじいさん自慢のカメラで撮った、しおかぜ岬の美しい景色の写真。海に沈む夕日や、一面のヒマワリ畑、夜の海を照らす灯台など、たくさんの写真を見て村のみんなは海に思いをはせるのでした。



 こうして、村中のみんなが持ち寄った『シルバニア村のすてきなもの』たち。これらを眺めながらのおしゃべりは、なかなか尽きそうにありません。
「さあ、みなさん、そろそろ投票の時間です。どれが『一番すてきなもの』にふさわしいか、決めてください。」
とクマさんが言うと、みんなが口々にこう言い始めました。
「ええーっ、一つになんて決められないよ。」
「この絵もとってもすてき、でも食べものもすてがたいわ…。」
どうやら、どれもこれも素敵に思えて、一つに絞れないようです。
「うーん、困ったな。これじゃあコンテストの結果が出せないよ。」
と、クマさんはまたまた考え込んでしまいました。



 そんなクマさんと、みんなの様子を見てウサギちゃんが言いました。
「こんなにたくさん、すてきなものを見つけてこられるなんて…。なんだか、村のみんなに一等賞をあげたくなっちゃうね。」
それを聞いたみんなは大賛成。
「そうだ、そうだ。すてきなものを見つけられるみんなが一等賞だ。」
「ふふ、こうやってみんなで心を合わせて頑張れるところも、すてきなもの一等賞ね。」
クマさんも笑顔で、
「そうだね。では、コンテストの結果を発表します。すてきなもの一等賞は、『シルバニア村の仲間たち』です!」
一際大きな拍手が鳴り響きます。
「これからも、このすてきなシルバニア村でみんな仲良く暮らしていこう。」
そう続けたクマさんに、みんなもにっこり笑って大きくうなずきました。
 キラキラ湖や花畑のすてきな景色が、みんなを祝福しているよう。お母さんたちが腕を振るったごちそうも、いい匂いを漂わせています。
「素晴らしいパーティーだね。参加できて本当にうれしいよ。」
とウサギのおじいさん。
おいしい料理を食べながら、すてきなものの話に花を咲かせるみんなを見て、ウサギちゃんは
(お友だちが遊びに来たら、みんなを紹介してあげなくちゃ。『これが、シルバニア村で一番すてきなものよ』、って。) と思うのでした。

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