街のすてきなグランドホテル

シナモンウサギのウィリアムはそわそわ落ち着かない気持ちでカートにスーツケースをのせていました。その理由は、さきほど恋人のショコラウサギのステラが
「お仕事が終わるまで、ロビーで待っているわ」
と言い残してらせん階段をおりて行ったから。
ふたりは今夜、レストランに食事に行く約束をしているのです。
「ステラ、ずいぶんおしゃれしていたな……」
かわいいステラを待たせていると思うと、ウィリアムは早く仕事を終わらせたくて仕方ありません。

「こんにちは、宿泊の予定なんですけど……あら、ウィリアム。」
キャラメルイヌのお姉さん、メラニーがフロントにやってきました。
「やあメラニー!ようこそ。今日は泊まりなのかい?」
「そうなの。タウンで新作シューズの展示会があるの。」
名前を書いてもらい、部屋の鍵を渡していると……フロントの電話が鳴りました。

「こちら、コンシェルジュです。どうかしましたか?」
「エミリアよ。ちょっと困ったことがあって。泊まっている間にカメラをどこかに置き忘れてしまったみたい。もう出ないといけないのに……」
しろウサギのお母さん、エミリアはあわてた様子です。エミリアのお部屋を一緒に探してみると、ベッドカバーとフットカバーのすき間からカメラが出てきました。
「そうだった、昨日寝る前にここで写真をチェックしていて、そのまま気持ちよくなって寝てしまったの。忙しいのに悪かったわね。」
大切なカメラが見つかってウィリアムはほっとひと安心。

ふとロビーを見たウィリアム。そこにはステラと……楽しそうに話をしている、シマネコのヴィクター。ステラはどうやら、カフェで働くヴィクターが淹れたコーヒーを飲んでいるようです。
「ふたりは何を話しているんだろう。ああ、今日のステラは一段とかわいくしてるのに……」
ウィリアムは急いでロビーに向かいましたが、ステラの姿はありません。
「いったいどこに行っちゃったんだろう?」

正面エントランスを飛び出したウィリアム。すぐ近くで読書をしていたペルシャネコのフィンとライラは心配そうに顔をあげました。
「どうしたんだい?そんなに慌てて。」
「ステラを見なかった?約束の時間を過ぎちゃって……」
ふたりを首を振りました。

ホテルに戻り、エントランスタワーからあたりを見渡してみると、見覚えのある姿。
「ステラ!」
名前を呼ぶウィリアムの方をステラが見ると、そこではライオネルのピアノに合わせチェロを弾くラブラドールのリアム。
「ウィリアム、ごめんなさい、探してた?音楽が聞こえたから我慢できなくて見に来ちゃったの。」
「ううん、大丈夫。ずいぶん待たせてしまってごめんね。」

「じゃあ、そろそろ行こうか。」
「ええ」
やっと会えたふたり。
イルミネーションが輝くタウンへと手をつないで仲良く出かけていきました。

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